参考:『2012年ネットバブル2崩壊~その仕組みと注意点~』
その際、以下のように述べた。
Facebookの上場がネットバブルのピークになる可能性が高い
そう、それは既に今月の話だ。
前回は構造的な資金循環と人々の熱狂という観点からネットバブルの仕組みを紹介した。
そこでも、ネットバブルが6年周期で起こっており、今後もその周期で起こる可能性が高いという話も紹介した。
さて、今回は3つの観点からネットバブルが弾けるかもしれない理由を説明してみたいと思う。
1.ネット企業のネット企業によるネット企業のためのネット企業投資
この数年で、ネット企業がどんどんVCを立ち上げて投資を続けているのは注意が必要かもしれないと思っている。
ネット企業のベンチャーキャピタルというと、GREE、サイバーエージェント、Klabなどが有名だが、その他自らVC部門を保有していなくても、自社のバランスシートから他社に投資をしているネット企業は増えてきている。
結果として、ネット企業群の中だけで資金が“好”循環している。
この波がスタートアップブームに火を点けている。
これは自分は、“ネット企業のネット企業によるネット企業のためのネット企業投資”と呼んでいる。
当然だが、ネット企業がその他の企業に投資する理由は2つだ。
- 投資した株式の値上がり益や配当から投資利益を得たい
- 投資先の新しい技術やサービスを利用し相乗効果を起こしたり自社のサービスを強化したい
さて、ここで問題となるのは、ネットバブルが崩壊、もしくは崩壊まで行かずとも急減速した場合だ。
だって、ネット企業がネット企業に対して資金を出してるわけでしょ。
これまでのペースで儲からなくなったら、どこ削るって、本業以外の部分だからVCは間違いなく対象になるし、本体のバランスシートから投資してるのなら厳しくなれば、資金を回収する。
これって、企業として当然の行動だよね。
もちろん、今後もネット周辺の市場は伸び続けると思う。
そのことに疑いはないし、それが決定的に2000年のITバブルとは違う点だ。
(当時はそもそもITというキーワードだけが一人歩きしネットを使いこないしている人間が少なかった)
しかし、過去4年間のようなモバイルアプリやソーシャルメディアやゲームなどほぼ完全に新しい市場が生みだされるまではいかないだろう。
つまりある程度までは出揃ったということだ。
そしたら今までと同じペースで新しいモノが生まれてくるわけではないし、今まで通りのペースで儲けることは難しい。
その結果、ネット企業自体も以前ほどは本業が儲かってないので、同じペースでの他社に投資することが難しくなる。
結果として、資金調達前提で展開してきたスタートアップが資金不足で急減速することとなる。
急減速するので、投資した資金も儲からない。
好循環が逆流すると、こういった悪循環になる。
過去のあらゆるバブルが好循環で生み出され、その後、このように逆流して、バブル後の悪循環が引き起こされ停滞期に突入する。
繰り返すと、ネット産業内で資金が循環してることが、勢いが止まった時に、逆に悪循環に陥りやすいってことだ。
2.安定した資金の出し手の不在
アメリカの金融機関のローン水準が1930年代の世界恐慌以下になっているようだ。
つまり超貸し渋りが起こっている状態だ。
参考:U.S. Bank Lending Below Depression-Era Levels:S&P
米国の金融機関は貸し渋り、欧州の金融機関も債務危機で貸せるような状態ではない。
ではどこが資金の供給者なんだろうか?
一つは投資家であることは間違いない、
もう一つは傷の浅い国の金融機関、これは新興国ということになる。
では、銀行からのローン(債券)と投資家からの資金(株式が主)は、どちらが持続性があるか?
答えは明白だろう。
安定的な資金の提供者である銀行からの資金提供が冷え、投資家からの資金提供に頼るのは、2000年のITバブル前、2006年のWEB2.0バブルと同じ構図だ。
投資家の資金は抜けると早いので、そこを頼りにビジネスをしていた会社は急ブレーキを踏まざるえなくなる。
去年の今頃もエール大学のEMBAと出張で米国に三週間程滞在していた。
シカゴ、ニューへイブン、NYC、ワシントンDC、ボストンなど。
どこに行っても貧困の二極化が酷い。
これは英国も中国そうなのだが(逆に日本は貧富の差はまだ小さい方だ)、とても危惧してる、2008年金融危機前と同じ感じで。
3.ベンチャーキャピタルの構造的欠陥
ここまでバブルだという話をしてきたのだが、昔ほどの情報格差はないので、バブルと言っても、日本の80年代や米国の2000年のITバブルみたいな異常な水準まで行くことも、広範にバブルになることも、長期的になること もないだろう。
これから起こるバブルの特徴は、“局地的”かつ“瞬間的”で、後からの参入組はバブルの恩恵をあまり享受できないまま終わることになることだ。
ゲームもアプリも先発組は鱈腹儲け、後発組が収益ギリギリが現状といった感じ。
3月の東京遠征で、その局地的に起こってるバブルを確信した。
理由は以下の2つだ。
- マネタイズの説明がほとんどできない所までベンチャーキャピタルやエンジェルの資金が加速度的に流入していること
- 加えて、IT周辺を全く理解しない個人投資家までもが面白そうとベンチャーキャピタルに資金を提供していること
自分は東京やシンガポールでベンチャーキャピタル達と一緒に投資家側や上場予備軍側を周っていたこともある。
ベンチャーキャピタル(VC)側の構造的な欠陥は以下の2点だ。
- ベンチャーキャピタルは資金を集めたら投資しなければならないこと(でないと投資家にリターンを返せない)
- 営業担当者のKPIに投資件数・金額等が採択されていること
この2つ目の欠陥が特に痛い。
それが故に、投資競争が加速し、自社が乗り遅れ、他社が投資したニュースなんかが出ると上司から怒られたりする。
自分は全てのVCを知っている訳ではないが、少なくともこのような仕組みになっているVCは多い。
しかし、何れVCへの資金流入が止まり、VC側の投資先のM&AやIPOが減少すると、VCからの投資も止まる。
結果、まず調達前提のビジネスモデルの企業は経営悪化に追い込まれる(≒営業キャッシュフローがマイナスの企業)。
一方で、これと同じ仕組みで、米国のVCの投資金額が大きいのは資金が世界中の投資家から集まるからだ。
中には政府系ファンドや年金基金、大学が運用する基金からも投資を受ける(Yale大学の基金やシンガポールのテマセクやGICの政府系ファンドはベンチャー投資でも有名)。
しかし日本のVCが海外の資金を集められることはほとんどないのでサイズ自体が小さい。
これは純粋に日本企業に魅力がないというよりも、VCが資金を集めるのが不得意であるというところの方が問題である。
(もちろんパフォーマンスが高くないというのもあるが、資金を集める営業力という点の方が大きい。)
このVCの営業力が日本と米国の調達額が一桁違う最も大きな理由だと考えている。
日本企業が日本市場しか対象にしていないからという意見もよくあるし正解なのだが、それよりも、そもそも資金提供者であるVCなどの規模の問題なのだ。
☆☆☆
以上、3つの観点から説明してみたが、この業界でこういった経済や業種の循環を見ていると本当に面白い。
如何に簡単すぎる構造で動いているのか?と。
でもそれをコントロールできてない人がほとんどという不思議な世の中。
バブルの面白い所は、論理的にバブルである気がしていても、感情的にそうではない気がしてくる所だ。
そうじゃない理由なんて幾らでも探せるからね、
そういった時に限ってメディアは、そうじゃない理由ばかり取り上げ、バブルを煽る。
本当なら、もっと長い期間を見据えて投資をしてくれるエンジェル投資家が増えればこういった構造が大きく変わるんだろうが、米国のように。。。。。
今の日本のエンジェル税制とネット企業に関する理解度だとまだ厳しいかな。
でも変えるけどね、ここも、いくつか考えている策はある。
まー色々書きましたが、相談できるCFOがいない方は気軽にご相談ください。
自分のビジネスとは関係ないですが、そこが理由でスピードダウンするのは本当にもったいないと思うので。
最後までお読み頂き誠に有難うございました。 何かしらの参考になれば幸いです。
photo credit: Ferran. via photo pin cc