私がかつてブログにあげた記事で非常に反響が大きかった一本がある。野村証券に入社して4年目の2009年11月、新卒以来配属されていた都内の支店から本社のプラベートバンクへの転勤が決まった際に全国の営業店に転勤挨拶メールとして書いた長文のメッセージのことだ。
私も当然、このメッセージに対する思い入れは深い。これを読み返すと、自分が裸一貫で大きな目標に立ち向かっていった日々や、自分の弱さを、気合いだけではなく知恵で乗り越えようとしているさまが鮮明に思い出される。自分との格闘の軌跡であり、「鬼速PDCAの成長ヒストリー」でもある。
ただ、このメッセージは社内向けに書いたものなので社外の人が読むと分かりづらい点や、場合によっては押し付けがましく感じられるきらいもあった。そこで今回、自分の成長のプロセスを支えた鬼速PDCAがいったん本という形でまとめることができたので、このメッセージをいくつかのテーマに沿って抜粋し、「鬼速PDCA」の視点から自己解説をしてみることにした。
繰り返すが、原文は27歳のときに書いたものなので、若干風圧が強い文章なのはご了承いただきたい(笑)。
■タイムマネジメントについて
”自分自身の1年目、2年目は、モヤモヤを感じる時間すら自分に与えないようとにかくガムシャラに走り続けたというのが実感だ。朝は誰よりも早く6時半前には出社し、暗くなっても新規開拓営業を続け、退社も誰よりも遅く。家に帰ってからも深夜1~2時頃までは徹底したインプット、ネットワーク構築、そして日々の詳細な行動管理などに費やした。
週末は更に加速し、毎週末20時間以上は大量のインプットや振り返りなどの時間を確保した。何度も壁にぶつかったが常に改善をしながら突き進み続け、目標に近い結果を得ることができた。”
→自己解説:入社当時の私は業界の素人。要領もまだわかっていないうえに、コミュニケーション上手というわけでもなかった。そんなスタート地点で私が立てた目標は「初年度に、全国の入社3年目までの営業の中で1位になること」。もちろんPDCAを回しながらではあったが、仮説が外れることも多く、とにかく時間が足りなかった。
本書でも書いたようにタイムマネジメントの三大原則は①捨てる、②入れ替える、③圧縮する(この順番で行うこと)。私の場合は「遊ぶ時間」「ダラダラする時間」をバッサリ捨てたわけである。思い切った決断ではあったが、幸い結果を出すことができたので「このやり方でいい」と自信を持てる好循環につながった。また、PDCA力自体も急速に向上していった時期でもある。
■モチベーションの維持について
”(新規開拓営業を)やってる最中はなかなか恐いものだ、(安定した売り上げが見込めるルート営業と比して)目の前の結果が少し減ってしまい、未来の大きな結果を目指して走るのだから。でも、100%の気持ちでコミットできたのなら結果は必ず出ると思う。途中で「やはり新規開拓やっても結果が出ないんじゃ?」と動きを止めたのなら結果にはならなくて当然だ。結果はいつ出るかは分からない、ただ99%の力ではなく、100%しっかりやり切れたなら必ず結果は出るのではないかと思っている。そのことを信じて自分自身走り続けたい。”
→自己解説:個人でPDCAサイクルを回すとき(すなわち自分の成長)の最大の障害は自分自身の「ココロ」である。組織で回すPDCAと違って、回すことをやめたところで誰にも怒られないからだ。そもそも大半のことは結果が出るまでにはタイムラグがある。営業は比較的反応が早い方だが、それでもすぐに契約件数が倍増するわけではない。がんばっているのに結果が出ない。だれしも経験することだが、私がそこで諦めなかったのは「行動目標」も追い続けたからだ(本書ではKDI(Key Do Indicator)として解説されている)。
中途半端な行動しかしていないのに結果が出ないことを嘆いても意味がない。というか、それでは結果が出ない要因が突き止められない。100%やった上で結果が出ないときだけ、仮説が間違っていたと判断して別の策を考えることができるのだ。
”私自身も、常にトップを走り続けることの難しさも体験した。しかし、そんな自分を支えたのは、入社1年目、富裕層の新規開拓を一年で200件以上行い、数十億円を集めた中で培った「新規開拓への絶対的な自信と信頼」だったと思う。「迷ったのなら新規開拓」とココロに言い聞かせ、3年目になっても暑い中、寒い中関わらず上場企業やその創業者など、超大手の開拓に周っていたことを昨日のことのように思い出せる。”
→自己解説:私は学生時代、サッカーに全力を傾けていたので、自分を鼓舞するためには「自分の対話」が欠かせないことを知っていた。その対話でもっと大事なことは「小さな自信」をいかに積み重ねるかだと思っている。その後に知ったPDCAは、そんな自分との対話をするときの格好の励まし役となってくれた。
こうした経験を経ているので、『鬼速PDCA』はフレームワークの解説書ではありながらも「PDCAと自信の関係」や「モチベーションの維持」といったメンタル面の話が端々に入っているのである。
■クリティカルな課題について
”とにかく徹底してインプットを続けました。社内のネットに膨大に保存されてる社内資料は営業に関する所は全て目を通しました。特に1、2年目は、日々、何十種類アップデートされる経済や企業レポートですら全てといっていいくらい読み尽くしました。雑誌は日経ビジネス・日経アソシエ・エコノミスト・ダイヤモンド・東洋経済・プレジデント・日経WOMAN・Economist・Newsweek等の全てを2年目以降は読み続け、本は月に20~30冊をビジネス本中心に入社以来ずっと読み続けました。
加えて、社内外のネットワークからは本当にいろいろなことを学ばせて頂きました。 営業に関することで言えば、いろんな裏技系といいますか、営業テクニックを。また、社内の主要部署からも貴重なテクニックをご教授頂きました。”
”3、4年目は自分にとって、仕事へのコミットの仕方を大きく変えた期間でした。それは「超大手の開拓」と「留学のための語学力向上」。つまり「基礎から応用へ」、「将来へ向けて」がキーワードでした。
1、2年目とは異なり、量をたくさんやるというやり方ではなく、質にこだわりました。また、自分の実力からすれば1ステップどころでなく、3ステップ上くらいの高みを目指した挑戦時期でもありました。(中略)また英語に関しては、特に強化し始めた昨年秋以降より現在までを計算すると勉強投資時間は1500時間以上にもなり、人事部の方々にも笑われていた英語の点数(TOEIC300点台)も一気に飛躍し、来年夏からシンガポールへのビジネススクールへの留学の機会を頂けた最低限レベルにはなりました。”
→自己解説:大きな目標を達成するためには、その目標をブレイクダウンし、構成要素を洗い出して、もっともインパクトの大きな課題に集中的に取り組むべきである。上に書いてあることはまさにその好例である。ちなみに1、2年目にインプットを大きな課題として取り組んでいたのは、経験の浅さを情報量でカバーするためだ。当時はいまほどスマホが普及していなかったので、情報を持った営業マンは重宝がられたからだ。
■フレームワークの重要性について
”人はそれぞれ「こうやればできるというプロセス」つまり「自分なりの成功法」を持っている。 例えると料理でいえば「レシピ」である。おいしい料理という結果を得るために、またその結果を再現するためにレシピを作る。これらは勝間和代さん的に言えば「フレームワーク」というものだ。 こだわっていたのは「再現性のある結果」。つまり、一度成功が起こったとしても、また起こせなければそれは「まぐれ」であり「一発屋」だ。営業マンとしては何度も成功を再現できる必要があり、理想的な像だ。
そのために成功体験や失敗体験の具体的な事象を徹底して分析した。分析して、形にしたものがフレームワークであり、これを繰り返すことにより徹底して洗練していった。”
→自己解説:鬼速PDCAのひとつの特徴である「伸長案」の原型は勝間和代さんだった(笑)。というのは言い過ぎだが、安定して結果を出すためには「フレームワーク」、すなわち「判断の仕組み」を形づくることが不可欠であることを当時は一番意識していた。そのフレームワークの作り方としては次のような記述がある。
”「面談依頼の巻紙を書き続けていたら社長から電話がかかってきて取引してくれた」、「2メートルくらいの超長文の巻紙を書いたら相手の社内でも有名になり、今まで断られていた受付が通してくれた」。こうした成功体験をした人が、その結果をそのまま「再現性のあるもの」だと思い込むと、結果は悲惨になるような気がする。フレームワークにならずに具体的事象しか見ていないからだ。
ここでしなければいけないはこの具体的事象を抽象化するための帰納法だ。つまり、「なぜ社長は電話をくれたのか?」「なぜ受付は通したのか?」という裏にある部分が重要で、おそらく社長は(中略)「そんな巻紙作戦なんてしてくる奴はいない」という「意外性(サプライズ)」の中に「熱意」を感じたのであり、その熱意に「可能性」を感じたという分析ができる。
こうやって抽象化(帰納)できたら、今度は演繹法にシフトし、「相手に可能性を感じてもらうためには?」「相手に熱意を感じてもらうには?」「相手にサプライズをおこすには?」という問いを立てる。すると巻紙という一通りででない、その他多くの行動選択肢が生まれることになる。”
→自己解説:起きた事象に対して「WHY?」によって抽象化し、次に「HOW?」によって具体化するロジカルシンキングの基本中の基本だ。つまり本質の理解に努めることで、その後の応用が利くようになり、再現性が高まるということだ。鬼速PDCAでは抽象化が「要因分析」であり、具体化が「解決案策定」にあたる。
■因数分解について
”私は「成果=量×質」と考えており、新規開拓の成果を因数分解すると「開拓成果=(モチマネ+タイマネ+ツール)×(学習+PDCA)」になる。このような因数分解を続けていった結果、「本を毎月30冊以上読む」や「ターゲット起業へ業界情報を毎週送る」
などという行動レベルに落とし込まれることになる。”
→自己解説:当時から因数分解は習慣になっていた。というよりも一種の楽しみであったと言ってもいいかもしれない。なぜならどんな課題、どんなゴールであっても、因数分解をすれば急に視界がクリアになる感覚が味わえるからだ。
ちなみに因数分解グセを数年間続けると「ほとんどのことは分解してしまったな。ほかに何か分解できるものはないかな」という達人レベルになれるので(笑)、その後のPDCAの速度と仮説精度(=速さと深さ)が高まる。
■PDCAについて
”これらのフレームワークを洗練、構築する上で重要なのが、日々のPDCAとHDCAである。PDCAはPlan⇒Do⇒Check⇒Action、HDCAはHypothesis(仮説)⇒Do⇒Check⇒Actionである。これを日・週・月・4半期・年ベースで続けてきた。やればやるほど、最初のPlanやHypothesisの時点で質が高くなるし、最短距離を設定できるようになる。どんなに飲んだり疲れて帰った日でもこれを続けてきた。”
→自己解説:当時はPDCAのことをHDCAと呼ぶことが好きだった。「計画」のPではなく、「仮説」のH(Hypothesis)。「間違っていたら直せばいいじゃないか」というPDCAの本質というか、前向きさをよく表していると思う。
なお、入社当初は仮説を立てようにも経験値が浅いので「とりあえずやってみよう」というパターンが多かったが(だから「量」が必要)、継続していればいずれ仮説の質が高まることを当時の自分は理解していた。
■ナビ思考について
”常に以下のことを明確にし、定期的に修正し続けた。
明確にゴール(目的地)を決め、そこまでの経路を決定し、そのロードを前に進むための手段を設定する。目的地→目的&目標であり、経路→戦略であり、手段→詳細なTODOである。人が目標達成へ向けて不安になる時というのは、必ず「今やってることって本当に正しいのか?」つまり「目的地へ本当に近づいているのか?」と疑問に思うときである。
例えば、「毎日30分だけ早く退社し財務分析の勉強をする」という行動を選択すると、実際の業務時間が減ってしまうし、エネルギーも消費するので一見ゴールから逆走しているように感じられてしまう。だが、その知識を使って経営者や経理担当者と話をすれば新規開拓率も成約率は上がる。
このあたりのことが常に明確になっていれば、時間や行動の選択が効率的になり、また「今やってることは正しい」という自信があるので、モチベーションも高くいられる。 先ほども記した通り、人が不安になる(モチベーションを落とす)のは「今やってることって本当に正しいのか?」、つまり「目的地へ本当に近づいているのか?」と疑問に思うときであるからだ。”
→自己解説:本書でも書いた「ナビ思考」は当時から変わっていない。
20代でまっとうなビジネスマンであれば早く結果を残すためにだれでも全力で仕事に取り組むだろう。でも、ただ努力するだけでは壁にぶつかったときやその人のストレス耐性を超える負荷がくわわったときにメンタル面で大ダメージを受ける。「なんのために働いているんだろう」「この努力に何の意味があるのか」「この方法のまま続けていいのだろうか」といったように。少しの休息で回復できればいいが、そのまま座り込んでしまう人も多い。
それを回避するためには、まるでナビの画面を見るように自分の現在地とゴールの位置関係を定期的に確認すること欠かせない。その点、PDCAを回していれば必然的に目的地と現在地と今行っている努力の意味を意識することになる。
■総論
改めてこのメッセージを振り返ると、自分の成長過程でPDCAがどれだけ大きな推進力として機能してきたかがよくわかる。
PDCAでは行動を含めて目標を数値化する前提なので、小さな前進であっても実感できる。大事なことは、その前に進んだ事実を自分に語りかけること。そうした自分との対話で自信をストックしていくと、さらにPDCAを回したくなる気分が湧いてくる。
これが鬼速PDCAの理想的な好循環であり、そのモードに入れば自分が驚くような高みにいくことができる。
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photo credit: marfis75 Where the streets have no name ( #cc ) via photopin (license)